山村洋装の、作ることに対する想いを言葉に表にした7つのテーマです。
綺麗(きれい)
岡本太郎氏に「綺麗と美しいは正反対だ」という言葉があります。
芸術は、人の心を揺さぶる「美しい」ものであるべきだ、という意味なのだろうと想像しています。その考え方には共感する部分もあります。
ただ、衣服について考えると、山村洋装は「美しい」よりも「綺麗」でありたいと思っています。
綺麗であることは、ときに無難で退屈なことのようにも見えるかもしれません。けれど、日々の暮らしのなかで、きちんと整った服装がもたらす安心感や信頼感は、とても大切なものです。
驚きや感動だけではなく、何気ない日常を支える綺麗さもまた、衣服の大切な役割だと考えています。
整然(せいぜん)
モーツァルトの音楽は、聴く人の期待を大きく裏切らないからこそ心地よい、と聞いたことがあります。
楽譜の上でも音符は整然と並び、その秩序のなかに豊かな表現が存在しています。
ものづくりも同じかもしれません。
人を驚かせるものを作ることは比較的簡単です。しかし、本当に難しいのは、斬新でありながら当たり前に感じられるものを作ることです。
新しさと自然さが同居すること。それが理想だと思っています。
静寂(せいじゃく)
静寂という言葉から、シンプルなものを思い浮かべる人もいるかもしれません。
たしかに「侘び」や「寂び」に通じる部分はあります。しかし、要素を減らしたものだけが静寂だとは考えていません。
黒川紀章氏が提唱した「花数寄」のように、一見すると華やかで装飾的なもののなかにも静けさは存在します。
静寂とは、見た目の少なさではなく、そこに流れる空気なのかもしれません。
だからこそ山村洋装は、静かな佇まいを持つ服でありたいと願っています。
丁寧(ていねい)
仕立てや縫製の丁寧さは、もちろん大切です。
技術的に完成されたものでなければなりません。
けれど、それ以上に大切なのは、丁寧な暮らしや丁寧な仕草、丁寧な生き方を支える服であることだと思っています。
そのための方法は一つではありません。手間をかけることだけが丁寧さではなく、あえて何もしないことが丁寧さにつながる場合もあります。
結局のところ、丁寧に考え続けることこそが、最も確かな丁寧さなのかもしれません。
配慮(はいりょ)
着ること、あるいは作ることにおいて、自分の好みをどこまで表現してよいのでしょうか。
皆が同じ服を着る世界は窮屈です。しかし、誰もが自由気ままに振る舞うだけでは、都市空間がそうであるように、どこか居心地の悪い場所になってしまうかもしれません。
そこで大切になるのが、周囲の人や環境への配慮です。
着てくださる方はもちろん、とても大切な存在です。ただ、着る人だけを大切にするのではなく、その人を取り巻く環境や関係性にも目を向けたいと思っています。
服装は、自分ひとりのためだけのものではなく、人と人、人と社会をつなぐコミュニケーションの一部なのですから。
他力(たりき)
ファッションに限らず、創造とは本質的に「自力」だけで生まれるものではないと考えています。
自分が作り出したというよりも、自然に導かれて形になったような感覚。
自分から語りかけるよりも、耳を澄ませて聞き取ること。主張するよりも、受け止めること。
お客様との対話や、その場の空気、時代や環境のなかから自然に浮かび上がってくる姿を、そのまま形にできたとき、最も美しいものが生まれるように思います。
とても難しいことですが、考え抜いた先にある「考えすぎない状態」が理想なのかもしれません。
心地(ここち)
心地よさというと、多くの場合は機能性を指します。
着心地の良さ、軽さ、動きやすさ。そうした要素は技術によって支えられています。
ものづくりの大部分は技術です。だからこそ機能性を追求することは、とても大切だと考えています。
けれど、それだけでは語れない心地よさもあります。
数字では測れず、人によって感じ方も異なるもの。
服を着たときに少し気持ちが落ち着くこと。前向きになれること。自分らしくいられること。
そのような心の部分こそが、実は最も大切な心地なのかもしれません。
結局のところ、服は心を満たすために存在しているのですから。
