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縫い目にすると硬くなる
平面の布から洋服をつくる場合、ほとんどの縫い目が不可欠で、どこを縫い目にするかにはある程度の決まったパターンがあります。
とはいえ、その「決まったパターン」にも課題はあり、そのひとつが「縫い目の箇所は硬くなる」という点です。機能性だけを考えれば、力がかかる部分には縫い目がないことが望ましい、ということになります。
つまり、「縫い目にすると硬くなるので、できれば避けたい」、ということです。
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1、袖にちょっとした工夫を加えたジャケット
2、ちょっとした工夫を加えた袖
そこで、今回つくったジャケットでは、袖にちょっとした工夫を加えました(図1、2)。
一般的なジャケットの袖は、図3のような構造になっています。これは、肘の動きを前提にして、横から見るとカーブする構造になっています。でも、このとき赤い線の縫い目は「力のかかる箇所」にあたり、場合によっては突っ張りの原因になります。そこで今回は、この縫い目が肘にかからないようにする構造を採用しました。
具体的には、図4のように、内袖を分割して、それぞれを外袖に合体させ、最終的な型紙は図5のようになりました。ポイントとしては、肘の部分に縫い目がこないようにすることです。
3、赤い線の縫い目は「力のかかる箇所」にあたり、場合によっては突っ張りの原因
4、内袖を分割して、それぞれを外袖に合体
5、最終的な型紙
6、「肩線」の移動
ただ、この構造が今後の“定番”になるかというと、そうはならないと思います。理由は、生地の使用効率が悪い、チェックやストライプの生地ではデザインの相性が悪い、などがあります。一方で、機能的なメリットを感じられるかは条件次第で、一定以上、伸縮性の少ない生地や、幅が広い袖では違いが分かりません。
今回のジャケットでは効果があると感じましたが、自分でも、すべての素材、デザインで、この袖の構造を採用することはありません.。
定着しているデザインには、定着している理由がある、という事例の一つだと思いますが、常に工夫の余地はあります。
なお、「力のかかる箇所には縫い目をなくす」、ほかの工夫として「肩線」の移動(図6)があります。これは、紳士服ジャケットなどでも見られる方法です。
洋服づくりにはたくさんの「当たり前」があります。でも、その当たり前を一度立ち止まって見つめ直すと、また違った可能性が見えてきます。
なので、「一緒に、『頭』まで硬くしてはいけない」という、洋服の縫い目の話でした。
