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技術が目的?


最近、イタリアのあるラグジュアリーブランドについての話をSNSで見ました。
そのブランドでは、「技術を残すために、あえて行っている工程がある」のだそうです。紹介されていたのは、特殊な技法で仕立てられたカシミアのリバーシブルコート。価格は80万円で、パタンナーでもある話者は、素材や手間を考えれば「むしろ安いくらいだ」と語していました。ボクは間違っても買えないけど。

実際にそうした話を聞いたのは初めてでしたが、ボクの感想は「そりゃそうだろうな」でした。
ラグジュアリーブランドの服を見ていると、ときどき驚くほど高度で特殊な技術が使われていることがあります。そして、そんな服を見るたびに、「スゲェなあ」と思う一方で、「でも、この手間に気づく人はどれくらいいるのだろう」とも思います。

素材の良さなら、肌に触れた瞬間に感じ取れるかもしれません。でも、仕立ての特殊性や高度な技術は、知識がなければなかなか分かりません。着る人がその価値に気づく可能性は高くない。
それでも、あえて技術を使い続ける。
もちろん、すべての商品が特別な手間をかけて作られているわけではありません。品質を保つことと、特殊な技術を投入することは別の話です。

消費者の要望に応える「マーケット・イン」の考え方は大切です。でも、その発想だけでは残せないものがあります。短期的な需要だけを追いかけていると、いつの間にか失われてしまう技術もあります。
ラグジュアリーブランドは価格の高さから批判されることがあります。最近は為替以上のペースで値上がりしていることもあって、「高すぎる」「ぼったくりだ」という声も聞きます。たしかにそうした側面がまったくないとは思いません。
でも、「中身はなく、広告にだけにお金をかけている」という批判は、ボクは違うと思います。少なくとも一部のブランドは、技術の維持や発展にも大きなコストを払っているからです。
技術の継承や発展を、企業活動の最優先事項にする必要はないと思います。でも、長い目で見ればとても大切なことです。

また、高度な技術を常に持っているからこそ実現できるデザインがあります。技術があることで選択肢が広がり、はじめて生まれる表現もあります。
伊勢神宮の式年遷宮も、理由のひとつは技術継承だと聞きます。こうしたことは個人の努力だけでは続きません。継続するための仕組みが必要です。根性だけでは次の世代につながりません。
本来、技術は何かを実現するための「手段」です。でも、ときには技術そのものを「目的」にした方が良い結果につながることがあります。

ボク自身、大学で教えていた頃、課題の中にリバーシブル仕立てが入っていたこともあって、自分でもいろいろとリバーシブル仕立ての技法を試していましたが、それは必ずしも実用的な目的で作っていたわけではありません。単に面白かったからです。言い換えると、そのときの目的は「技術そのもの」でした。
ノウハウを蓄積するため。つくり手のモチベーションを保つため。そして、「いずれ実現できるかも」のため。
技術を定期的に目的として扱わなければ、いざ必要になったときに、その技術は失われているかもしれません。

それは、料理人が包丁を研ぐことに似ています。普段あまり使わない包丁であっても、いつでも使える状態にしておく。技術もまた、そうやって維持されるのだと思います。

技術は手段?、それとも目的?
もしかすると「手段」と「目的」は、ボクたちが考えるほど、きれいに分けられるものではない、のかもしれません。

技術が目的?

技術が目的?

技術が目的?

技術が目的?


2026年8月07日