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着ること、育てること


最近、あるアパレル企業のYouTube番組でジーパンの比較企画を見ました。さまざまなメーカーや価格帯の製品を紹介する内容だったのですが、印象的だったのは、20代の進行役の方が「ジーパンは縮むもの」という認識を持っていなかったことです。

今の工業製品として考えれば、「縮む」「色落ちする」「歪む」といった変化は、本来であれば品質の不安定さとして扱われます。でも、ジーパンの世界では、それらを「育つ」と表現し、積極的な価値として受け入れる文化があります。
実際、高級なジーパンほど昔ながらの製法を守っていることが多く、製品として見れば、必ずしも安定しているとは言えませんが、その変化こそが魅力とされています。

ボク自身も、生地がどの程度縮むのかを確認するために、縦横50センチ間隔で印を付け、水に浸したりスチームアイロンをかけたりして検証することがあります。
もちろん統計的な調査ではありませんが、現在の生地は全体として非常に安定していると思います。一般的には水に浸けない梳毛ウールの検証でも、ほとんど変化しないものが少なくありません。
一方でデニムは、生地によって大きな違いがあります。ほとんど縮まないものもあれば、数パーセント縮むものもあります。パンツ丈が1メートルなら数センチ変化する計算ですから、着用感にも見た目にも大きく影響します。
さらに縮みやすいものとして、一部の着物用シルクがあります。スチームアイロンをかけている最中に目に見えて縮んでいく生地もありますが、まったく変化しないものもあります。同じ天然素材でも、その性質はさまざまです。

生地の世界では、こうした「不安定さ」が価値につながることがあります。
最新の高速織機は、生産効率を高めるために強い糸を必要とし、その結果、生地は硬くなりやすくなります。それに対して昔ながらの低速な織機では、柔らかな風合いを生み出すことができます。
染色も同じです。天然染料は合成染料に比べて変色しやすい一方で、独特の表情や深みがあります。また、綿100%の生地とポリエステル混の生地では、安定性に大きな差があります。
つまり、「良い生地ほど安定している」とは必ずしも言えません。むしろ、風合いや質感を追求すると、ある程度の不安定さを受け入れる必要が出てくるのです。
また、仕立ての世界では生地を事前に縮める「地のし」や、縮絨加工などの技術もあります。ただ、一度縮めたからといって完全に安定するとは限りません。天然素材は最後まで生き物なのです。

冒頭の「ジーパンが縮むことを知らなかった」という話に戻ると、これは企業努力によって製品が安定した結果だと言えます。
それ自体は良いことです。
でも一方で、天然素材が本来持っている性質を知らずに済んでしまう時代になった、とも言えそうです。

技術の進歩によって製品が安定することは歓迎すべきことです。でも、自然由来の素材が持つ不安定さまで市場から排除されてしまうと、その魅力や価値を知る機会も失われてしまいます。
変色しやすい天然染料や草木染め、独特の風合いを持つ織物などは、変化そのものが苦情の対象になれば、市場から姿を消してしまうかもしれません。そして、それを支える技術までもが失われる可能性があります。

「縮む」「色落ちする」「歪む」。
これらを劣化と見るか、味わいと見るかは、個人の価値観ではありますが、時代の価値観でもあります。
「中古」と「ヴィンテージ」の違いと言い換えてもよいのかもしれません。

ボクは、服の世界では「味わい」と呼べる領域が、もう少し広がっても良いのではないかと思っています。不安定さを受け入れることでしか得られない品質があるからです。
また、デザインや仕立ての工夫によって、「劣化」と呼ばれる変化を「味わい」へと変えることもできます。

もちろん、すべてのものに不安定さが許されるわけではありません。工業機械やパソコンに対して「不安定だけど味がある」とは言えません。

でも服は違います。服は、そこまで厳密ではありません。そして、人とともに変化していくことが許される数少ない道具でもあります。
だからこそ、服をただ消費するだけでなく、「育てる」という楽しみ方が増えても良いのではないでしょうか。

着ること、育てること

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2026年7月31日