「簡単」と「簡単そう」
ボクが好きな建築家・村野藤吾氏が、日本建築を設計する際に心に留めていた言葉に「泉岡語録」があります。 この服を作るのは「難しい」です
その中にある、
「腕の良さを見せようとするな、技を殺せ。」
という言葉が、ずっと印象に残っています。
ものづくりをしていると、ときどき感じることがあります。
それは、「簡単そう」に見えるものほど、実は難しい場合があるということです。
世の中には、複雑な構造や高度な技術を使った作品がたくさんあります。でも、それらが本当に優れているかどうかは、難しそうに見えるかどうかでは決まりません。
むしろ、苦労を感じさせず、自然にそこにあるもののほうが、美しく見えることがあります。
ボクは、「難しいこと」を「難しそう」に見せることよりも、「難しいこと」を「簡単そう」に見せることに魅力を感じます。
ただ、それは簡単なことではありません。
技術を隠すには技術が必要です。
余計な説明をなくすには、本質を理解していなければなりません。
そして何より、自分の腕前を見せたいという気持ちを抑えなければなりません。
だから村野藤吾氏のいう「技を殺せ」という言葉は、決して消極的な意味ではなく、とても高度な姿勢なのだと思います。
一方で、ボクは「技を見せる」ことも大切だと思っています。
洋服の世界には、ボタンホールや手縫いの仕立てなど、機能だけでは説明できない技術があります。
そうした技術は、ときに作り手の誇りであり、次の世代へ受け継がれていく文化でもあります。
技を隠すことも、技を見せることも、どちらが正しいという話ではありません。
大切なのは、その技術が何のために存在しているのかを考えることだと思います。
山村洋装は、デザインも型紙も縫製も、一人の人間が考えながら進めています。
だからこそ、見た目の印象と実際の難しさが一致しない場面に何度も出会います。
あっさり描いた線が何日も悩んだ結果だったり、シンプルに見える服のために何十回も型紙を作り直したりすることもあります。
逆に、複雑そうに見える服が意外なほど素直に完成することもあります。
ものづくりの現場では、「簡単」と「簡単そう」は同じ意味ではありません。
「難しい」と「難しそう」も同じではありません。
見た目は、その本質を必ずしも語ってくれないのです。
だからボクは、完成したものを見るときも、自分で作るときも、その二つをできるだけ分けて考えるようにしています。
目立たないところに時間をかけること。
気付かれない工夫を積み重ねること。
そして、できるなら苦労を感じさせないこと。
そんな仕事に、美しさを感じています。
2026年8月30日
